今回は「教えて考えさせる授業」について紹介します。
珍しく教え方に関する話です。
LearnTernはどちらかというと、学び方に焦点を当てているメディアです。
しかし一流の学習者としては教え方にも通じていたい、ということで教授法についてもいくつか紹介していく予定です。よろしくお願いします。
「教える」だけの授業 VS 「考えさせる」だけの授業
二種類の授業スタイルの話をします。
一つ目は「教える」だけの授業。
教師が一方的に知識を教える授業です。
日本の教室でよく見られる授業風景ですね。
この授業スタイルの問題点はいろいろ指摘されていました。
仮に説明が超絶上手い教師がいたとしても、生徒は「わかった」気になっているだけで実際に知識を習得できているとは限りません。
さらに「思考力」に焦点を当てた教育が奨励される流れがやってきます。
そこで二つ目。
「考えさせる」だけの授業です。
アクティブラーニングの名の下に、生徒が自分で考えることを大事にする授業スタイルです。
一つ目の授業スタイルに比べると、生徒の主体的な学びが期待できます。
しかし方法を間違えると、学習効率が下がってしまいます。
いきなり問題を持ってきて「はい! 皆で考えてみて!」。
この方法では目的の知識が習得できるかわかりません。
基本となる知識や戦略も教えずに考えさせても学習にならないのです。
そこで今回紹介する「教えて考えさせる授業」が出てきます。
「教えて考えさせる授業」とは?
「教えて考えさせる授業」はその名の通り「教える」と「考えさせる」どっちもしっかいやる授業スタイルのことです。
市川伸一さんによって提唱されているスタイルになります。
以前紹介した「学習動機の二要因モデル」も市川さんの提唱している理論です。その他にも認知カウンセリングなど、教育の実践に役立つ研究を多く行っている人なのです。
「教えて考えさせる授業」の根幹となっている考え方は以下のもの。
知識があってこそ、人は考えることができる
プログラミングの基礎知識がない人に、「自分で考えてメモアプリを作れ」と言って取り組ませる。これは難しいでしょう。
そもそも知識を習得させる上で、一から考えさせる必要なんてまったくないのです。それでは「車輪の再発明」です。数学の公式を一から作らせるのではなく、一度教えた後、その形成過程を説明するほうがベターです。
(ストーリーを用いて教えるGBSなどもあるので必ずしもそうではないかもです。)
基礎となる知識をまず「知った」上で、「理解する」ための学習を行っていくのが基本になります。
「教えて考えさせる授業」の4ステップ
「教えて考えさせる授業」は基本的に次の4ステップから成ります。
① 教師の説明
② 理解確認
③ 理解深化
④ 自己評価
順番に説明していきますね。
ステップ① 教師の説明
「教えて考えさせる授業」の第一段階は、教師による説明です。
「教える」に当たる部分ですね。
まずはこのステップで、思考の基礎となる基本知識を説明します。
あらかじめ予習を指示しておくのもありです。
「教える」だけの授業の時よりも効率的に知識を提示する必要があるので、事前の準備をしっかりやる必要があります。
ステップ② 理解確認
ステップ②~④は、「考えさせる」に当たる部分です。
一つ目は学習者の理解を確認するステップになります。
ステップ①で説明した内容をどの程度理解できているか確かめるために、疑問点を挙げさせたり、生徒同士で説明させたりなどが基本です。
〈理解確認でやりたいこと〉
- 疑問点の明確化
- 生徒自身の説明
- 教え合い活動
ステップ③ 理解深化
「教えて考えさせる授業」のステップ③は理解を深める段階です。
ここが「考えさせる」のメインプロセスともいえます。
発展的な問題や誤解を解くような問題を出して、生徒自身が答えを発見していくよう授業を進めます。アクティブラーニングですね。
グループを作って協同学習させるのもオススメです。
〈理解深化でやりたいこと〉
- 誤解が起きそうな問題(今までの常識を砕く問題)
- 応用・発展的な問題
- 試行錯誤による技能の獲得
ステップ④ 自己評価
「教えて考えさせる授業」の最後では生徒に学びを振り返らせます。
「わかったこと」「まだわからないこと」「さらに考えたいこと」を生徒自身に記述させます。
学習者のメタ認知をもっとも促進するものなので、これからの学習にも繋がるプロセスです。
意外と授業でないがしろにされやすい部分ですが、学習をレベルアップさせるためにはめちゃくちゃ重要なプロセスです。経営学のナレッジマネジメント領域なんかでも、最後の自己評価プロセスが非常に重視されています。
〈自己評価でやりたいこと〉
- 理解状態の表現
以上が、「教えて考えさせる授業」の4ステップです。
習得と探求のサイクルにおける位置づけ
市川さんが提唱しているものに「習得と探求のサイクル」というものがあります。
「習得のサイクル」は、既存の知識や技能を獲得すること。
「探求のサイクル」は、自ら課題を設定してそれを追求すること。
そして学習は「習得」と「探求」の両輪で行っていくべきものだと主張されています。
ここでありがちなのが、「考えさせる」のは「探求のサイクル」のみだと考えてしまうパターンです。
「教えて考えさせる授業」は習得のサイクルにあたります。
つまり、習得のサイクルにおいても「考えさせる」プロセスは存在するのです。
「教えて考えさせる授業」が新たな授業スタイルとなる
「教えて考えさせる授業」はこれから授業スタイルの基本になると思います。
教える側もいろいろレベルアップしないといけないわけですね。
教職についていない人でも、知識を教える機会がある人は多いと思います。
「教えて考えさせる授業」を上手く活用してみましょう。
「教えて考えさせる授業」を設計してみる