今回のLearnTernでは記憶の種類、特に「エピソード記憶と意味記憶」に焦点を当てて紹介します。
*この記事は2019年12月14日に内容を中程度修正しました。以前の記事とは論理展開や解釈が変わっています。再学習や他人への共有時には注意するようお願いします。
エピソード記憶とか意味記憶って何が違うの?
「エピソード記憶」「意味記憶」
こんな言葉を聞いたことがあるでしょうか。
「記憶って長期記憶と短期記憶じゃないの?」
そんな風に思う人も多いかもしれません。
もちろん長期記憶・短期記憶という分類もあります。
今回注目する「エピソード記憶」「意味記憶」は、いわば長期記憶の種類です。
これら2種類の記憶はそれぞれ性質が違います。
その性質の違いに着目した学習法、知っておきたくないですか?
記憶の種類
まずは記憶の種類を俯瞰しておきましょう。
長期記憶・短期記憶というのは記憶の保持時間に着目した分け方です。
ちなみに、短期記憶よりもさらに短い「感覚記憶」というものも提唱されています。
何かを見たときに、一瞬だけそのイメージがそのまま残っているのですが、それが感覚記憶です。使われなければ即座に消えます。
長期記憶はさらに「宣言的記憶(陳述記憶)」と「手続き的記憶(非陳述記憶)」に分かれます。
宣言的記憶は、言葉で記述できる記憶です。
手続き的記憶は、言葉で記述できない記憶です。身体の動かし方などですね。
より詳しく見ていきましょう。
宣言的記憶は「意味記憶」と「エピソード記憶」に分かれます。
手続き的記憶の分け方はいろいろありますが、よくあるのは「手続き記憶(身体知)」と「プライミング記憶」です。
宣言的記憶の2つの種類。
今回の標的、意味記憶とエピソード記憶。
では、エピソード記憶から見ていきましょう。
エピソード記憶・意味記憶は、「長期記憶」の中の「宣言的記憶」の種類
エピソード記憶とは?
エピソード記憶とは、時間や場所・感情などの情報を持った個々の経験や体験のことです。
一言でいえば「思い出」になります。
「昨日、カレーライスを食べすぎて吐きそうになった」
「3日前、カレーのつくり方を教わった」
「子供の頃、カレーが大嫌いだった」
(さっき授業でカレーが出てきたせいで具体例がカレーだらけになってしまいました……)
このエピソード記憶、みなさん持っているとは思いますが、「復習」したことってありますか?
あまりないですよね。
でも全部ではないにしろ覚えています。
これがエピソード記憶の性質です。
たった1度の符号化で記憶してしまうのです。
一方でエピソード記憶は、同じような体験を何度も繰り返していくと記憶の「識別」が難しくなっていきます。
毎日部活で同じような練習をしていると、具体的なエピソードとしての記憶は弱まっていくものです。
代わりに、こうして繰り返されたエピソードは意味記憶へと変化していきます。
意味記憶とは?
意味記憶とは、一般的な知識などに関する記憶です。
一言でいえば「知識」になります(厳密な表現ではないので注意)。
「カレーライスは辛い」
「カレーはインドで生まれた」
「カレーは2日目がうまい」
意味記憶は、感情も結びついているエピソード記憶と比べると幾分淡泊な感じがします。
記憶を定着させるには「復習」や「精緻化」によって覚える努力をすることが必要です。
勉強の目的は確かに意味記憶を手に入れることなのですが、エピソード記憶を無視して意味記憶ばかり求めていると実は非効率です。
エピソード記憶で学習効率を上げる
エピソード記憶と意味記憶の違いはいろいろとあります。
その一つは「符号化」と「検索」のプロセス。
ざっくりいうと「覚える」方法と「思い出す」方法です。
意味記憶が概念的な精緻化・体制化(覚える方法)が必要なのに対し、エピソード記憶は時間的な符号化、そして物語的な符号化が行われます。「いつ、どこで、誰が」みたいな記憶です。
「検索」プロセス、つまり思い出すときに利用するのはこういった「手がかり」になってきます。
エピソード記憶から意味記憶に変化するとき、微妙な情報はカットして保存していきます。
とりあえず撮った思い出の写真や動画。溜まってきたら、似たような写真や余計な動画は捨てたりします。ストレージ、アルバムがいっぱいになってしまうからです。
同じように「エピソード記憶→意味記憶」の途中に細かい記憶、手がかりは失われてしまうのです。
通常はそれでも問題ありません。意味記憶は知識として存在します。
ただし、学習中はエピソード記憶の「手がかり」の豊富さが利用できます。
知識として定着する前の話です。
《エピソード記憶の手がかり強化》
というわけで、エピソード記憶の「手がかり」を学習に活用する方法を手に入れましょう。
思いつく方法をいくつか挙げていきます。
「初めての…」エピソード記憶化
私は高校1年の頃、英語をほとんど勉強していませんでした。
しかし2年に上がり、きたる修学旅行(@海外)に向けて、英語学習を始めたのです。
そのとき、はじめて覚えた単語が「realize」。
以来、その単語は忘れたことがありません。
(まあ、今となっては割と基本単語だな…と思うこともあります)
何が言いたいか、というと「初めての」ことはエピソードになる、ということです。
覚えにくい知識があったら、これは何の「初めて」にできるだろう、と考えてみるといいかもしれません。
「人に話す」エピソード記憶化
手っ取り早い方法は人に話すことです。
なぜその人に話したのか、いつ話したのか、どんな反応だったのか、などの記憶と結び付けていくことでエピソードになっていきます。
複数の知識を結びつけるエピソード記憶化
色々な知識を組み合わせて物語をつくってみましょう。
この時、なるべく関係なさそうな知識を使うのがコツです。もともと関連した知識だと、他の構造と干渉して上手くいかなかったりします。
エピソードを見つけ出すエピソード記憶化
もしくはその知識自体に何か感情を揺さぶってくるようなエピソードがないか、探してみましょう。
興味のない人物や公式でも、その背景にある物語を知ることでエピソードになるかもしれません(単なる意味記憶の延長になる可能性もあります)。
世界史の授業で先生が話していた謎エピはこのエピソード化を手伝ってくれていたのかもですね。
特定の場所や時間と結びつけるエピソード記憶化
普段は勉強しないような場所や時間で知識をインプットすることで、その学習自体がエピソードになります。
あえてその知識に関係のある場所で勉強してみるのもありかもしれません。
上級編:恥をかく(感情を揺らす)エピソード記憶化
恥ずかしかったことは覚えているものです。
教室にて大声で歌い上げる、公園で逆立ちしながら勉強する、モノマネしてみる…
それでもいいのですが、「ムダな恥ずかしさ」感がありますね。
でも現実的なものが1つあります。
「間違ってみる(間違いをおそれず発信・行動してみる」
誰かに間違いを指摘されると恥ずかしいものです。
すると覚えます。
思い切ってアウトプットしていくことには、こんな効果もあるのです。
エピソード記憶の「手がかり」を利用する手法について紹介しました。
他にもいろいろあると思います。
要は「時間・場所・感情」などに結び付けたりすればいいわけです。
オリジナルの手法を開発してみてください。
記憶の種類を理解する
記憶の種類、エピソード記憶と意味記憶について学習しました。
種類が分けられているということは、それぞれの記憶が異なる性質を持つということです。
それぞれの記憶の性質を理解することで、より上手く学習することができるようになります。
今回は「エピソード記憶の手がかりを利用すること」についてお話ししました。
この技を使いこなして、記憶マスターを目指してみてください。
*意味記憶とエピソード記憶の違い、ひいては「記憶の分類」について、学問の世界では長く論争が続いています。この記事の内容はある側面からの切り取りです。より詳しく知りたい人は以下の論文からお読みください。
(参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/apr/18/3/18_3_182/_pdf)
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