【具体例付き】学習性無力感とは? 仕事や学習で落ち込みすぎないための対策を紹介します

【具体例付き】学習性無力感とは? 仕事や学習で落ち込みすぎないための対策を紹介します

今回のLearnTernでは「学習性無力感」を紹介します。
学習性無力感とは「どうせやっても無駄だ」と、学習に対する「できる感」をなくしてしまうことです。

・どのような人がなりやすいのか
・どのような場面でなりやすいのか

これらを学んで学習性無力感への対抗策を考えておきましょう。

学習性無力感の脅威

学習者に降りかかる脅威の一つ。
「学習性無力感」。

学習性無力感とは「どうせやっても無駄だ」という信念を学習してしまうことで意欲を失ってしまう現象のことです。

酷ければ「うつ病」にもなりかねない学習性無力感ですが、もっと身近なレベルでも発生します。

「俺、数学はどんだけ勉強してもムリだわ……」
「私にプログラミングはムリですよ、前やってみたけど全然でしたもん……」
「デザイン?美術の成績はずっと1だった僕に何か用ですか?」

どうでしょうか?

あなたは周囲の人で、学習性無力感に陥ってしまったという例に心当たりがあるでしょうか?

学習者はもちろん、すべての分野を学習しなければ行けないわけではありません。「向き不向き」というものはあります。

でも過去の経験から、いたずらに可能性を否定してしまうのはもったいなくないですか?

今回はそんなモッタイナイ学習者を減らすべく、「学習性無力感」の正体となりやすいシチュエーション、そして対策を紹介していきます。

学習性無力感とは

*ここから少し理論的な話をするので、興味ない人は次の「学習性無力感の例 3つ」までスキップしてください。

先ほども述べたとおり、学習性無力感とは「どうせやっても無駄だ」という信念が学習されてしまうことで意欲が低下してしまう現象のことです。

人のモチベーションを左右する「期待理論」の文脈で言えば、結果期待(非)随伴性認知の一種になります。

学習性無力感が提唱される結果となったSeligmanMaierによる「イヌの実験」は有名です。

学習性無力感の実験(Seligman & Maier, 1967)

Seligmanらによる実験をシンプルに説明してみます(詳細な条件等は省いての描写なので参考にする場合は注意)。

部屋A:パネルを押せば電気ショックが止まる
部屋B:パネルを押しても電気ショックが止まらない

部屋A、Bそれぞれにイヌを1匹ずつ入れます。
部屋Aに入ったイヌは電気ショックを止められますが、部屋Bのイヌはいくらパネルを押しても電気ショックを止められません。

部屋C:柵によって2つのスペースに分けられ、片方に電気ショックが流される。なお電気ショックが流される前に「サイン」がある。

続いて、先ほどのイヌ2匹を順番に部屋Cに入れます。
部屋Cでは、「サイン」を見て、もう一方のスペースに移動すれば電気ショックを避けられるわけです。
部屋Aに入ったイヌは回避に成功しました。

つづいて部屋Bに入ったイヌです。どのような結果になったかわかるでしょうか?

そこにあったのは、ただ電気ショックを耐え忍ぶ1匹のイヌの姿でした。

 

可哀想ですが、メカニズムの説明に移りましょう。

部屋Aのイヌはパネルを押すことで電気ショックを回避できたという成功体験(随伴的経験)がありました。結果、部屋Cでも自分の行動によって結果は変わるという「随伴性認知」を持っていたわけです。

一方部屋Bのイヌ逆の経験(非随伴的経験)をしていました。結果、部屋Cでも自分の行動によって結果は変わらないという「非随伴性認知」を得てしまっていました。

これが学習性無力感の正体です。
同じような現象が、サカナ、ネコ、ネズミ、サル、そしてヒトでも確認されていきました。

改訂学習性無力感理論(Abramson et al, 1978)と「うつ病」

この学習性無力感に「原因帰属理論」を適用し、認知的側面を強調した理論が「改訂学習性無力感理論」です。

以前LearnTernで紹介した「原因帰属理論」では、位置の次元・安定性の次元・統合可能性の次元でしたが(下の記事を参考)、改訂学習性無力感理論では位置・安定性に加え、全般性の次元が加わっています。

改定学習性無力感理論は、端的にいうと、「学習性無力感になりやすいのはどんな人か」を説明するものでもあります。同時に「抑うつ」を説明するモデルでもありますが、このあたりは詳しくないので今回は割愛です。

改定学習性無力感理論では、

「自分に原因を求めてしまい(内的)、これからも同じことが起こると考え(安定的)、それはあらゆる局面で生じるだろう(全般性)と考えてしまう人」

が学習性無力感に陥りやすいとしています。

学習性無力感の例 3つ

ちょっと抽象的・理論的な話が続いてしまったので、ここらで具体的なイメージを補充しておきましょう。
一応LearnTernのコンセプトに合わせて「学習者」という視点での学習性無力感の例です。

学習性無力感の例① 数学の点数が変わらないクリス

数学が苦手なクリス。でも今回のテストは高2最後のテストです。気合を入れて勉強しました。
……しかし結果はいつもと変わらない点数。赤点。
高3になったクリス、数学の授業は全て寝るようになってしまいました。

今回は数学でしたが、似た経験を持っている人は結構いるのではないでしょうか?
学習性無力感の脅威がよく表れた例です。

ただ勉強法が良くなかっただけかもしれない。今回はたまたまテストの難易度が高かっただけかもしれない。
実は凡ミスによる失点が多く、問題解決のレベルは上がっていたのかもしれない。

でも、学習性無力感は「認知」なのです。事実がどうあるかは関係なく、クリス本人がどう思うかによって発生してしまうのです。
モッタイナイですね。

学習性無力感の例② プログラミングに挫折したアンナ

アンナはエンジニアの道に憧れ、先輩にプログラミングを習うことになりました。しかしアルファベットの羅列に圧倒されるアンナ。
「は? これ前教えたよね? 汚いコードだし…。センスないんじゃない?」
先輩に言われ、アンナは静かにPCを閉じました……。

プログラミングは初心者からすると本気で意味がわかりません。でも学習を続け、実践するうちにわかってくるものでしょう。
しかしアンナは自分の努力の結果を先輩に否定され続けることで、学習性無力感に陥ってしまいました。

日本からまた一人、エンジニアが消えてしまったのです。

学習性無力感の例③ こんなエジソンは嫌だ

クラスの発明家、エジソン君は「電球」を発明しようとしていました。
しかし来る日も来る日も失敗ばかり。部屋に散らばるのは2000のフィラメント。
「絶望。ムリ。小遣いドブに捨てた。もう何も残ってない」
エジソン君はそうツイートして、プロフィール欄から「発明家」を消しました。

「失敗ではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ」

こっちが本物のエジソンですね。

例に登場するエジソン君は1つ1つの実験結果から何のフィードバックも得られなかったと感じ、学習性無力感に陥ってしまいました。彼が「安定性」や「全般性」の原因帰属を持っていた場合、もう何かを発明しようとすることは無いかもしれません。

学習性無力感になりやすい人・シチュエーション

具体的なイメージも補充した所でまた一般的な話に戻りましょう。
ここでは「学習性無力感の陥りやすい人、シチュエーション」を箇条書きにて紹介します。

学習性無力感に陥りやすい人の特徴

■ 完璧主義な人
→悪いループに入りやすい

■ 生活リズムが乱れている人
→脳内物質が十分に出ておらず、些細なきっかけで学習性無力感に陥る

■ (一般的)自己効力感/自尊心が低い人

原因帰属タイプが「内的・安定的・統制不可能」な人
→失敗を拡大解釈して自滅していく

■ 大きなストレスを抱えている人
→心の中で失敗の要因をぐちゃぐちゃにしてしまう

学習性無力感が発生しやすい状況

■ 周りから繰り返し否定される
→非随伴性認知が促進される、「自分は何やってもダメだ」

■ 学習性無力感を感じている人に囲まれている
→学習性無力感は「伝染」する

■ フィードバックが受けられない
→行動による成果・影響がわからなければ、その行動に対する期待を低くなる

いかがでしょう?
あてはまる特徴はありましたか?

学習性無力感への4つの対策

お待ちかね、学習性無力感への対策です。
とはいうものの、ここまでの内容を深く理解できている人ならなんとなく対策が浮かんでいるんじゃないかな、と思います。

対策① 完璧主義を捨て、小さな成功を喜ぶ

まずは完璧主義を捨て、達成度を見るようにしましょう。

「スモールステップ」の考え方は学習性無力感対策として非常に役に立ちます。
「即時フィードバック」、つまりすぐに行動に対してフィードバックが得られるような仕組みを作り、「スモールステップ」を心がければ、低レベルな学習性無力感は解決するはずです。

対策② 原因を環境に求める

「原因帰属」は学習性無力感の原因の代表格です。

まずは原因を自分に求めすぎてしまうことをやめましょう。
カンタンにやめることはできないと思いますので、周囲の協力が必要かもしれません。

とにかく原因を「自分」ではなく「環境」に求めます。

「ちょっと先生と相性悪かったのかもしれないよね!」
「いやいや、この課題ムズすぎでしょ!」
「ぶっちゃけ、先輩のイビリ、気持ちよくなってきた……」

3つ目は違いますね。

まあやり方はいろいろです。
「環境にも原因があるのでは?」という視点を持つことが大切になります。

対策③ 状況の特異性を認識する

「原因帰属」としてもう1つ、その失敗がまた起こる、他の状況でも起こると考えてしまうことも学習性無力感を促進します。

完全に同じ状況なんてありません。

1つ1つの状況は違うのだと認識し、具体的にどこが違うのかを明確にしていきましょう。
そうすることで、学習性無力感から逃れられる可能性が高まります。

対策④ 生活や身だしなみを整え、自尊心を向上させる

学習性無力感は「自尊心」「脳内物質」によっても左右されます。

まずは生活リズムを整え、ついでに身だしなみも整え、「イケてる自分」を見つけましょう。
学習性無力感を防ぐためだけでなく、いろいろなことが好転していくかもしれません。

学習性無力感に気をつけて!

  • 学習性無力感は「やっても無駄」と思い込み、やる気が無くなる現象
  • 学習性無力感は“モッタイナイ学習者”を増やしてしまう
  • 学習性無力感は対策できる

学習性無力感によって自分の可能性を限定してしまうのは非常にモッタイナイことです。

でも多くの人が程度の差はあれ学習性無力感を経験しているかもしれません。

一流の学習者は、学習性無力感に抵抗する。

LearnTernでは学習者に役立つ情報をいろいろと発信していきます。
そのコンテンツが学習性無力感へ抵抗する助けとなることを祈り、これからも執筆をつづけていきます。

 

自分が学習性無力感に陥っていることがないか、考えてみよう

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