今回のLearnTernでは「ラーニングピラミッド」を紹介します。
ラーニングピラミッドは有名なものですが、間違っているという意見もあったり。
今回はラーニングピラミッドの間違い、そしてラーニングピラミッドから得られるポイントを整理していきましょう。
ラーニングピラミッドとは
ラーニングピラミッドとは、能動的に学習すればするほど定着が期待できるとする考えをピラミッド型の図にまとめたものです。
アクティブラーニングの根拠として広く使われ、多くの教育関係者が知っていると思います。
しかし、ラーニングピラミッドに実証的な根拠はない、データに基づいたものではない、とする声も多く上がっています。
ラーニングピラミッドは実践には使えない、根拠のない理論なのでしょうか?
私達はラーニングピラミッドから何の示唆も得ることができないのでしょうか?
今回のLearnTernでは、ラーニングピラミッドについて考えていきたいと思います。
ラーニングピラミッドの内容
本格的な話に入る前にラーニングピラミッドの内容を確認しておきましょう。
上図の通り、ピラミッドの下に向かうほど能動的(アクティブ)な活動になり、学習定着率が高いとされています。
-講義:5%
-読書:10%
-視聴覚:20%
-デモンストレーション:30%
-グループ討論:50%
-自ら体験する:75%
-人に教える:90%
プログラミング学習を例にイメージしてみましょう。
1. 講義 → 初心者が黒板での講義だけ聞いても、実際にプログラミングができるようにはならないでしょう。
2. 読書 → 受動的な講義に比べると能動的に学べますが、実践・応用力は得られません。
3. 視聴覚 → イメージなどをより詳細に動画で学べると良いかもしれません。
4. デモンストレーション → 実際のプログラミングを1から10まで見ることができれば実践的能力の獲得につながるでしょう。
5. グループ討論 → 学習内容について他者と語り合えば、自分の勘違いに気がつけるかもしれません。
6. 自ら体験する → 実際にプログラミングしてみるのが、習得には一番です。
7. 人に教える → 人には教えるためには自分がしっかりと理解している必要があります。教えることで自分の知識が整理されていくでしょう。
以上、どうでしょうか?
ラーニングピラミッドは一見正しそうに思えますよね?
しかしラーニングピラミッドは間違っている、根拠がないと言われ、最近は批判の対象になることも多いです。
そのあたり、考えていきましょう。
ラーニングピラミッドは間違い?根拠は?
ラーニングピラミッドの批判として上手くまとまっているのが「ラーニングピラミッドの誤謬」(土屋耕治)という特集記事です。
その記事を参考に、ラーニングピラミッドの間違いについて挙げてみました。
ラーニングピラミッドの誤り① 数字に根拠はない?
ラーニングピラミッドには学習定着率として、数字が与えられていますよね?
でもそのデータはどのような実験をもって得られたのでしょう?
実はこのあたりが謎なのです。
ラーニングピラミッドの系譜としてはNational Training Labolatory(アメリカ国立訓練研究所、NTL)のものやDaleの「経験の三角錐」が挙げられます。
が、そのどちらにも数字の記載はありませんし、実際の実験データも出てこないようです。
「自ら体験する」ことによる学習定着率は75%ですが、どうでしょう?
高すぎる、引きすぎる、いろいろな意見があると思います。
本来そこに対する科学的なデータなのですが、ラーニングピラミッドはそのような根拠が希薄なのです。
ラーニングピラミッドの誤り② 「人に教える」はなかった?
さらに言えばNTLの時点ではラーニングピラミッドの最下層に位置する「人に教える」はなかったようです。
伝言ゲーム的にどこかで間違ったのでしょうか?
もしかしたら誰かが意図的に挿入したのかもしれません。
学習定着率も90%で、少々高すぎな感じもします。
ラーニングピラミッドの誤り③ 学習の性質や文脈を無視している?
また、ラーニングピラミッドは上から下に行くにつれて学習定着率が上がるとしていますが、一概にそうとは言えないのではないでしょうか?
・あらゆる学習内容において「グループ討論」が有効足り得るでしょうか?
・「読書」の定着率は低いでしょうか?
・「人に教える」より「自ら実践する」の定着率の方が高い場合もあるのではないしょうか?
このような学習の性質や文脈を無視している部分が、ラーニングピラミッドにはあるのです。
ラーニングピラミッドは使えない?
さて、ここまででラーニングピラミッドの間違いについて見てきました。
では「ラーニングピラミッドは使えない」のでしょうか?
いやいや、そんなことはない、と私は考えています。
実際ラーニングピラミッドには、実感や経験として正しいとされる部分も多くあります。
ただなんとなく講義を受けているより、ディスカッションした方が記憶に残るでしょうし、実践的な体験や他者への教示が有効な学習手段であることは他の研究分野でも支持されていることです。
学習定着率の数字や、ピラミッド構造をそのまま受け取らなければ、有用な考え方ではあるのです。
自分や生徒の学習定着率が悪いと思ったら、ラーニングピラミッドを参考にして、異なる手段を検討してみると良いかもしれません。
重要なのは「多角的に、能動的に学ぶ」ことです。
ラーニングピラミッドは、それをサポートするツールとして使えるのです。
ラーニングピラミッドから示唆を得よう
-ラーニングピラミッドは、能動的になるほど学習定着率が上がるとするものである
-ラーニングピラミッドの科学的根拠は希薄
-一方でラーニングピラミッドには実感や経験として正しい部分もある
-「多角的に学ぶ」ためのツールとしてラーニングピラミッドは有用
まあアクティブラーニングを広めようとして、無駄に広がりすぎてしまった感はあります。
が、科学的な根拠を無視すれば納得性の高いものではあるでしょう。
ラーニングピラミッドには7つの層がありますが、これら全てを上手く組み合わせれば良い学習になりそうですよね?
「正しい」「正しくない」は学問の世界のおはなし。
結局は、私達が自身の経験の中で確認していけばいいのです。
ラーニングピラミッドに照らし合わせて、自分の学習(教育)を振り返ってみよう