目標がパフォーマンスに与える影響とは?
「目標を立ててみたんだけど、いまいち上手くいかないんだよな……」
そういう人、結構多いと思います。
「目標」は人のパフォーマンスに大きな影響を与えます。
そんな「目標」について研究している人たちが当然いるわけです。
以前、マスタリー目標とパフォーマンス目標という2種類の目標について紹介しました。
あれも目標についての理論の1つです。
今回はより「目標」のメカニズム、「目標」がどのように人の行動に影響を与えるのか、そのプロセスを見ていきたいと思います。
「目標設定理論」
この目標設定理論を学んで、①どのような目標を立てるべきなのか、②目標を立てた後どのようにすればいいのか、を考えていきましょう。
目標設定理論とは
目標設定理論とは、目標が行為のレベル(パフォーマンス)にどのように影響を与えるか、そのプロセスを明らかにしようとする理論です。
特に仕事における動機づけの分野で発展してきた理論になります。
基本は以下の図になります。
*訳語は『学習意欲の理論』(鹿毛雅治、金子書房)を参考
目標設定理論は、「目標のコア」「媒介変数」「(認知的)メカニズム」「パフォーマンス他」の4つのモジュールで構成されています。
各モジュールの詳細は次で説明するとして、まずは目標設定理論の基本的な流れを見てみましょう。
「目標のコア」モジュール
まずスタートは左にある「目標のコア」モジュールです。
どのような目標が設定されているのか、に焦点を当てています。
目標系の理論では、この「目標のコア」モジュールが「パフォーマンス他」モジュールに影響を与えることが前提です。
というわけで、「目標のコア」モジュールから「パフォーマンス他」モジュールに矢印が伸びています。
目標設定理論では目標自体だけでなく、その周囲の条件が目標と連動して与える影響にも注目します。
「目標のコア」から「パフォーマンス」に伸びる矢印の上下にあるモジュールがそれです。
「媒介変数」モジュール
まず上にあるモジュールが「媒介変数(Moderators)」になります。
ここには目標と行為に関連するさまざまな要因がまとめられています。目標に対するコミットメントの度合いや自己効力などが一例です。
「(認知的)メカニズム」モジュール
下にあるモジュールは「(認知的)メカニズム」です。
努力や粘り強さなど、認知的な要因が集められています。
上と下のモジュールは理論の流れが異なる感じです。
ざっくりイメージを伝えると、上の「媒介変数」モジュールは目標や課題に関係する要素、下の「メカニズム」モジュールは人自体に宿る要素、といったものになります。
で、この2つのモジュールが「目標のコア」→「パフォーマンス」の流れに追加で影響を与えるわけです。
つまり、目標の性質だけでパフォーマンスに良い/悪い影響があると決まるわけではないのです。
「パフォーマンス」モジュール
さらに最後、「パフォーマンス他」モジュールの説明です。
行為の後には結果が生まれ、人はその結果に「満足感」を覚えます。
その「満足感」が高いものであれば、「新しいチャレンジにコミットしようとする意欲」が醸成され、それが上のモジュール「媒介変数」に影響を与えるようになります。
この部分がサイクルになっているわけですね。
以上が、目標設定理論で説明される目標周りの要因とパフォーマンスの関係になります。
目標がパフォーマンスに与える影響は、「目標自体の性質」「目標と行為に関する諸々」「人の性質」によって定義され、またパフォーマンスもそのプロセスにフィードバックされる
一回見ただけでは難しいかもですね。
具体例を示してもいいのですが、その前に各モジュールについてもう少し理解を深めたいと思います。
目標設定理論 各モジュールの説明
「目標のコア(Goal Core)」
「目標のコア」モジュールは目標自体の性質を示すものです。
一口に目標といっても様々な種類が挙げられています。
LearnTernでもマスタリー目標/パフォーマンス目標などを取り上げてきました。
目標設定理論では特に、具体性・困難度に焦点をおいています。
抽象的な目標より具体的な目標の方が、行動がより方向づけられ、パフォーマンスが向上すると考えられています。
さらに、簡単な目標より困難な目標の方が行動を活性化させ、パフォーマンスを高めるようです。
目標設定理論のスターターである「目標のコア」。
強い影響を求めるなら困難で具体的な目標を設定しましょう。
(とはいってもバランスが大事です。)
「媒介変数(Moderators)」
「媒介変数」モジュールの主な要素は、目標へのコミットメント・目標の重要性・自己効力・フィードバック・課題の複雑さ、です。
なかでも注目されているのはコミットメント・フィードバック・課題の複雑さの3つです。
目標のコミットメントに関しては期待×価値理論が役立つでしょう。
フィードバックは目標に対する進捗、目標とのズレの察知ができているか、が焦点となります。
目標の効果を最大限に発揮したければ、フィードバックを整備しておきましょう。
課題の複雑さに関してはバランスが大事です。
一般的に複雑になればなるほど、より能力・スキルが必要となってきます。あまりに複雑になってしまうと負担になりパフォーマンスが下がる一方、単純すぎると意欲低下につながってしまいます。
「メカニズム(Mechanizms)」
「メカニズム」モジュールは認知的特性が主な要素になります。
例えば、選択や方向づけ、努力、粘り強さ、方略などです。
目標達成に向けた行動のためには、行為者の努力や選択の方式、また適した方略を持っているか、なども重要になってくるのです。
「パフォーマンス(Performance)」
パフォーマンスについては2つの項目が挙げられています。
「生産性」と「コスト改善」です。
目標によって、生産性が向上し、コスト改善意識がつくのです。
以上4つのモジュールで目標設定理論は構成されています。
目標設定理論の活用法
最後に具体例も兼ねて、目標設定理論をどのように活用していけばいいか考えてみましょう。
目標を上手く使うためのガイドとなるのが目標設定理論です。
目標を立てても上手くいかない場合、まずは目標設定理論に照らし合わせて、どのモジュールで問題が生じているのか、確認していきましょう。
① 「目標のコア」に問題がある場合
そもそも適切な「目標」になっていない場合、目標によるいい影響が得られるはずありません。
パフォーマンスは落ち、達成感を阻害し、負のスパイラルに入ってしまう危険性さえあります。
対処法を2つ、挙げましょう。
1つ目は、より具体的で困難な目標にすること。
とはいっても適切なレベルを見極めて、です。
具体的な目標の方が行動がはっきりしますし、困難な方が盛り上がります。
ただし実現可能性が著しく低いと逆効果ですので気を付けましょう。
また他モジュールの性質によっても調整が必要な場合があります。
2つ目は、目標の型を変えること。
以前紹介した「マスタリー目標」「パフォーマンス目標」が代表的な目標の種類です。
他にも目標達成への距離で近接目標・遠隔目標などもあります。
状況に応じた目標の型を選びましょう。
② 「媒介変数」に問題がある場合
目標の形や内容は適切なのに上手くいかない、という場合に多いのがこの「媒介変数」モジュールにおける問題です。
むしろ「媒介変数」モジュールを上手く扱えれば目標-パフォーマンス関係を支配できると言えるかもしれません。
図には5つの媒介変数が挙げられています。
それぞれの対処法を考えてみました。
目標へのコミットメント、および目標の重要性
→「期待×価値理論」を応用して目標に対する行動を動機づけよう。
自己効力
→自己効力感を向上させるための手法を考案・実行してみよう
*フィードバックへの対策と合わせて実施すると良いでしょう
(例:小さな変化を計測し行動と結びつける)
フィードバック
→フィードバックを得られるよう、結果の測定・共有法を考えよう
→目標に対する進捗が一目で確認できるようなシートを作成しよう
課題の複雑さ
→複雑すぎるのであれば、課題を小さな単位で分けてクリアしていこう
→単純すぎるのであれば、より包括的な課題を設定しよう
③「メカニズム」に問題がある場合
認知的なメカニズム、努力量や選択の方向性、持っている方略に問題がある場合です。
目標の性質も媒介変数も完璧。
でも努力できない、適切なスキルや知識を持っていない、という状態ではパフォーマンス向上率は落ちてしまうでしょう。
対処法は大きく2つ。
1つ目は、現状のメカニズムに合わせて、目標のコアや媒介変数の方を変更するやり方です。
もし生徒や部下の目標設定について悩んでいるのであればこちらの選択肢をとってもいいかもしれません。
2つ目は、必要なメカニズムに成長させる、というやり方です。
つまり、努力量を増やす、適切なスキルや知識を身に付ける、精神修行で粘り強さを鍛えるなどを通して、目標のコア・媒介変数に合わせていくのです。
コストがかかってくる分、パフォーマンスの向上率も高くなります。
以上、目標設定理論の活用法、いくつか挙げてみました。
目標設定理論は目標を効果的に使うためのガイドです。
ガイドブックを活用しましょう。
目標を効果的に使おう
目標はパフォーマンスに影響を与える。
だとすれば、より良い影響を与えるように目標を使うべきですよね。
そのためには目標がパフォーマンスにどのように影響を与えるのかが大事なわけです。
「目標設定理論」を日常に持ち込んで、自分や生徒のモチベーションをコントロールしてみましょう。
目標設定理論に基づいて、自分の目標-パフォーマンスサイクルを見直してみよう