今回はSternbergの提唱する「知能の三頭理論」を紹介します。
環境の違いによる知能の方向性の差異を吸収する実践的なモデル。
これを学んで、知能に関する新たな見方をこじあけましょう。
Sternbergは3つの知能
「知能」シリーズの3本目です。
これまではCattellによる「流動性知能と結晶性知能」、Gardnerによる「多重知能理論」を紹介してきました。
前回のGardnerは、知能を8つにまで拡張し、学習者の可能性を拡げていましたね。
今回の主役、Sternbergはまた絞ります。
「3つ」です。
もう言っちゃいますね。
分析的知能・実践的知能・創造的知能の3つです。
学業優秀な少年Sと薬草採取を手伝う少年T
それぞれの知能を説明するため具体例を出していきますね。
学校に通っている少年Sと、田舎であまり学校には行かず家業の薬草採取を手伝っている少年Tがいたとします。
彼らをいわゆるIQテストで測定するとどうなるでしょうか?
まあ、学校に通っている少年Sの方が知能が高いとされますよね。
しかし本当にそう言えるのでしょうか。
少年Tは薬草に関する知識、観察してそれらを見分ける力、加工する力、そういったものを持っています。これらを有機的に活用していたとして、少年Tは本当に知能が相対的に低いと言えるのか。
結局、一律的なIQという概念ではこのような環境の違いによる知能の方向性の差を吸収できないんですね。
そこでSternbergは新しい知能を設定しました。
少年Sのように、主に学業の上に構築される、テストのような問題を解決する能力を「分析的知能」、少年Tのような生活の中で形成される、ある環境下で求められる理解や実践の能力を「実践的知能」とします。
分析的知能:テストなどの典型的な問題を解決する能力
実践的知能:その環境に必要な理解を得て、実践に移す能力
創造的知能:??????????
他の例も出してみましょう。
貧民街の出身で、すこしアンダーグラウンドなビジネスで生計を立てている少年U。
彼はビジネスに関する計算や戦略構築ができます。
しかし彼を学校に連れてきて数学のテストを受けさせても点数は取れません。
少年Uの実践的知能は優秀である一方、分析的知能に関しては習熟が進んでいないのです。
この二つの知能の尺度の違いを無視して、分析的知能のみ評価していてはモッタイナイ状況に陥ることは容易に予想がつきます。
その意味で、Sternbergの三頭理論は有用です。
競馬の予想をする人
「で、創造的知能はなんなんだよ?」と思う頃でしょうか?
ではここでも例を出しますね。
競馬の予想屋がいます。彼はプロといっていい腕前で、競馬によって生活しています。
一方、IQは高くありません。
予想屋は、強力で複雑なメンタルモデルを駆使します。
メンタルモデルというのは、「こうなったらこうなる」というイメージみたいなものですね。メンタルモデルがあるゆえに、僕らはいろいろな技能を習得できるのです。
予想屋が使うメンタルモデルにはさまざまな変数があります。
馬の情報、過去の戦績、騎手の情報、得意なレース、そのレースの情報……。
このような複雑なメンタルモデルは経験の蓄積によって形成されていきます。
クリエイティブ系や職人たちのメンタルモデルも同様です。
そして、この種のメンタルモデル形成にIQは関係ありません。
IQが高ければ複雑なメンタルモデルを構築できるというわけではないのです。
ではこの能力は何なのか?
Sternbergはこれを「創造的知能」としました。
分析的知能:テストなどの典型的な問題を解決する能力
実践的知能:その環境に必要な理解を得て、実践に移す能力
創造的知能:新しい状況に対応するために既存知識・技能を組み合わせて応用する能力
知能の3つの方向性、わかったでしょうか?
知能の三頭理論の意義
Sternbergによる知能の三頭理論。
一律のIQテストでは知能が低いとされる人々が持つ能力を明らかにしていくものです。
さらに、現実世界において成功する人々の多くは、分析的知能によってではなく、実践的知能や創造的知能を活用しています。
この3つの知能フィルターを持っていることで、学業ベースになりやすい現代世界において「知能の高さ」を現実的に把握することができるのです。
3つの知能を見極めよう
あなたはどの知能が発達していますか?
周りの人は?
学校では低い評価を与えられている人も、実践的知能や創造的知能が突き抜けているかもしれません。
新たな視点を持って、人の能力を分析してみましょう。
分析的・実践的・創造的で、知り合いを分類してみよう