価値理論とは? 学習者の意欲を上げる価値理論による動機強化プロセス

価値理論とは? 学習者の意欲を上げる価値理論による動機強化プロセス
目次

期待×価値理論

一流の学習者は学習意欲をコントロールします。

学習意欲に限らずモチベーションを上げる方法について体系化できれば、それは人にとって非常に価値があることですよね。
実際、モチベーションを上げる、「動機づけ」の研究分野では様々な理論が提唱されています。

その中でもシンプルでわかりやすいのが「期待×価値理論」です。
動機づけを、期待(「できそう!」)と価値(「やる意味がある!」)の積によって説明しようとする認知論的アプローチになります。

今回紹介するのはこのうち「価値」に関する理論、価値理論です

価値について理論的に理解することが、学習者のモチベーションにどのように活かされるのか?
価値理論をどのように動機づけに活かすのか?
この問いに答えていきます。

価値理論とは?

あなたはどんな時にやる気が湧きますか?

「この課題には取り組む価値がある」と思ったとき、あなたが天邪鬼でなければ、やる気が湧いてくるはずです。

「これからの時代はAIだよな。よし、機械学習について勉強してみよう!」
「中世ヨーロッパ史めっちゃおもろいやん。勉強しよ!」
「先輩が薦めてたし、哲学、本気でやってみるか」

ここで挙げたのは学習意欲に関するものばかりですが、人は価値のある課題に対して動機づけられます。

プラスの価値を感じているものに対しては「接近」行動(その価値に近付こうとする行動)、
マイナスの価値を感じているものに対しては「回避」行動(その価値を遠ざけようとする行動)をとるのです。

このような「価値」と「やる気」の関係に着目して動機づけを解き明かそうとするアプローチが価値理論になります。

今回は、価値と行動の関係をまとめたもの、そして価値を6種類に分類したものについて学習しましょう。

価値と思考・行動の関係


(『Handbook of Motivation and Cognition: Foundations of Social Behavior』)

上の表はRaynorとMcFarlinがまとめた「価値」と思考・行動の関係を示した表です。
価値の方向性」と「心理的距離」の2軸でそれぞれの時にどのような行動が起こるかを分析したものになります。

心理的距離とは、価値と現状との距離を表すもので、この表では「ゼロ」か「ゼロ以上」に分けられています。

「心理的距離がゼロ」というのは、既にその価値が表れている状態を指しています。
例えば、数学の勉強を日々頑張っていることで、高い点数を取れていれば心理的距離はゼロといえます。

「心理的距離がゼロ以上」というのは、その価値が未だ実現していない状態を指しています。
例えば、数学の点数がまだ低い状態は心理的距離がゼロ以上だといえます。

それでは各行動について説明しましょう。

「維持」:心理的距離ゼロ×プラスの価値

現状でプラスの価値を感じている場合、その行動を維持しようとします。
毎日ランニングを行うことで高い体力と充実した一日を得られていると考えている人は、引き続きランニングを行うでしょう。

「実現」:心理的距離ゼロ以上×プラスの価値

現在の行動の先にプラスの価値が実現すると感じている場合、その価値を実現するために行動を起こそうとします。
ブログを毎日更新することが将来の利益につながると信じていれば、日々のブログ更新を頑張るはずです。

「除去・撤退」:心理的距離ゼロ×マイナスの価値

今度は逆にマイナスの価値に対する行動です。
現状にマイナスの価値が表れていれば、それを回避するために、原因を除去もしくは自分が撤退する行動をとります。
無駄な脂肪が増えてきたな、と感じるとダイエットをしなくなるかもしれません。

「抵抗・妨害」:心理的距離ゼロ以上×マイナスの価値

マイナスの価値が表れることが想定される場合は、その可能性に対して抵抗・妨害を見せます。
明日の会議で部長に怒られないようにするため、資料をじっくりと読み込んでおく、などの行動が一例です。

私たちの日々の思考や行動は「維持 / 実現 / 除去・撤退 / 抵抗・妨害」の4つのいずれかに当てはまっています。
実際には、価値の絶対値や心理的距離が小さく、どの行動かよくわからないものもあるかもしれません。

しかし、自分の思考や行動をこのフレームで分析することで、自らの動機づけプロセスを理解できるようになるはずです。

6種類の価値

次は価値の分類に関する理論です。
さまざまな分類法が存在しますが今回は『学習意欲の理論』(鹿毛雅治)にて紹介されている6種類の価値について紹介します。

この分類は、課題(対象)に直接関係する要素に起因する「課題内生的価値」を3つ、課題(対象)自体には無関係な「課題外生的価値」を3つに分けたものです。

課題内生的価値

① 興味関連価値
「課題の楽しさや興味」に対する価値です。判断軸は「興味深い/つまらない」になります。

② 実用関連価値
「ある目標に対しての有用性」に対する価値です。判断軸は「役立つ/役立たない」になります。

③ 文化関連価値
「文化に対する適応的な意味」に対する価値です。判断軸は「社会的に望ましい/望ましくない」になります。

課題外生的価値

④ 自我関連価値
「課題達成による自尊心の高揚・維持」に対する価値です。判断軸は「自分が誇らしくなる/惨めになる」になります。

⑤ 報酬関連価値
「課題達成による実際的な利益」に対する価値です。判断軸は「得する/損する」になります。

⑥ 対人関連価値
「課題達成による人間関係上の効用」に対する価値です。判断軸は「他者の期待に応える/他者が望まない」になります。

まずはその価値が課題自体に関するものなのか(課題内生的価値)、それとも課題に関連する別の何かに由来するものなのか(課題外生的価値)で分類し、さらに3つのうちどれに当たるのか考えてみましょう。

 

「自分が何に価値を感じているのか」という問いは重要なものですが、抽象的になりやすいものです。
この6分類を使って、各課題に対して感じている価値、未来に感じられるかもしれない価値を分析してみましょう。

この価値に対する分類は「学習動機の二要因モデル」とも似ているので、よろしければそちらも確認してみてください。

価値理論の使い方 – 価値理論による動機強化プロセス

さて、価値理論について2つの理論を先に紹介しました。
が、重要なのは利用法です。

というわけで、「価値理論による動機強化プロセス」を紹介します。
まずは基本のプロセスを説明したあと、具体例で理解していきましょう。

「価値理論による動機強化プロセス」基本プロセス

① 意欲をコントロールしたい「課題」を選ぶ

まずはこのプロセスでやる気をコントロールしたい「課題」を選びましょう。

② その「課題」に対する現在の思考・行動をリストアップし、心理的距離/価値の方向性で分類する

現状、その課題に対してどのような思考・行動をとっているかを洗い出し、1つめの理論である心理的距離/価値の方向性によるマトリックスで分類してみましょう。

この工程によって、現状の自分と課題の関係を客観視できます。

③ 新たに増やしたい思考・行動を選ぶ

そこから課題達成のために新たに欲しい思考・行動を4種類の中から選びましょう。
複数選んでも大丈夫です。

④ 現在の価値を6種類で分類する

次のもう1つの理論、6種類の価値で、現在自分がその課題に対してどのような価値を認識しているのか分析しましょう。

ここまでで現状の確認が終了です。

⑤ 新たに増やせる価値、強化・弱化できる価値を見つける

6種類の価値分類の中で、増やしたり、強化(マイナス価値の場合は弱化)できるものを探しましょう。
あらかじめ6種類の分類が用意されていることで順番に可能性を分析していけます(フレームワーク的な使い方)。

選んだ分類の中で、さらにその価値を具体的に分析していきましょう。

さらに③で決めた思考・行動を促進するイメージを固めましょう。

⑥ その価値を認識する

あとはその価値の認識を強めていけば、「課題」に対して感じる価値が変わっていくはずです。
簡単に上手くいく技法ではないのですが、価値を認識し、コントロールするという視点が重要になります。

「価値理論による動機強化プロセス」具体例

① 意欲をコントロールしたい「課題」を選ぶ

今回は「マクロ経済学入門の学習」を選択しました。

② その「課題」に対する現在の思考・行動をリストアップし、心理的距離/価値の方向性で分類する

マクロ経済学の学習は大学の試験ためであり、単位を落とさないためのものです。
したがって、現在の思考・行動は専ら「抵抗・妨害」にカテゴライズされます。

③ 新たに増やしたい思考・行動を選ぶ

現在の心理的距離はゼロ以上で、「抵抗・妨害」はすでに発生しているので、新たに増やしたい行動は「実現」になります。
さらに、心理的距離ゼロ状態のプラス価値、「維持」も発生できれば、と思います。

④ 現在の価値を6種類で分類する

単位取得が主な目標であったため、プラス方向の「報酬関連価値」を持っていると判断できます。
また、「興味関連価値」「実用関連価値」がマイナスの状態(面白くない、役に立たない)です。
この辺りが、いまいち学習に身が入らないボトルネックかもしれません。

⑤ 新たに増やせる価値、強化・弱化できる価値を見つける

ここまでの情報から「興味関連価値」「実用関連価値」をプラス方向に持っていくことを目指します。

ここでポイントですが、具体的な課題内生的価値の発見のためには、(A)直接的に課題に取り組む(B)課題内生的価値を持っている人に教えてもらう、という手法があります。
今回は(A)の手法を選び、実際に『マンキュー マクロ経済学入門』を読みながら価値発見に努めました。

「興味関連価値」
→マクロ経済学の大枠がわかって面白いかも…と思う
→IS-LM分析までのアプローチがちょっと面白いかも…と思う

「実用関連価値」
→経済学の式って面倒そうと思っていたが、実際に作られる過程を学ぶと、他分野にも応用できそうだと感じる

さらに途中で発見したのが
「自我関連価値」
→マクロ経済学がわかる自分、かっこよくない?

以上のプラス価値を発見しました。

⑥ その価値を認識する

⑤で発見した価値を認識しながら学習を行います。
今回だと「興味関連価値」により「維持」、「実用関連価値」「自我関連価値」により「実現」の発現を図ることにします。

文章にすると地味ですが、実際「単位を落とさないため」だった学習が、より価値のあるものになりました。今度マクロ経済学入門についても書こうと思います。

価値を意識して、モチベーションを操ろう

以上、価値に関する2つの理論と、その理論を活かした動機づけプロセスを紹介しました。

期待×価値理論の片方、「価値」を意識しコントロールすることで、モチベーションを操ることができます。

一流の学習者は学習意欲を支配する。
まずは学習意欲の理論について学びましょう。

 

 

「価値理論による動機強化プロセス」を実践してみよう


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